すいみんせいかつ


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それは幸せな日常



疲れたな、と思って、ソファに横たわったところまでは覚えている。

兄さんが視察に呼び出されて、一週間の出張に出かけたのは数日前。
その間、ボクは普段過保護すぎる兄さんのもとでは出来なかった、屋根の修理やら庭掃除やらの力仕事をこなそうと頑張っていた。兄さんはそんな仕事などずぼらでしようともしないのに、ボクがやろうとすれば渋い顔で怒るのだ。

「全く、ボクはもう平気だって、言ってるのに。」
そんなに簡単には壊れないよ、と思う。でもあの兄は、そうは思っていないのだった。確かに錬成後、身体が脆弱になった、という自覚はある。何年も放っておかれたせいなのか、身体が敏感に環境に反応してしまうし、この身体に戻って二年も経つのに、未だに身体が重いような気がする。けれどもボクはそれを、魂だけで生きてきた後遺症だと思っていた。

――だって、それ以外に思いつかないし。後遺症なら、地道に直していくしかないし。

直すのならば、少し身体には厳しくあたった方がいい。甘やかすといつまでたっても脆弱なままだ。そう言っているのに、兄は何かにつけては心配し、大げさに騒いだ。この間など立ちくらみで救急車を呼ばれて、本当に恥ずかしい思いをしたのだ。

「ごめんな。」
ボクが倒れると、兄さんは必ず謝った。
この後遺症は兄さんのせいではないのに。
そういうのは、すごく、困る。何でも自分のせいにしてしまう兄の性分は。見ているこちらの方が辛くなるということを、全く分かっていない。そろそろそのくらいのことは分かって欲しいと思うのに、ちっとも兄さんはボクの言うことを聞いてはくれないのだった。

だから、いつもは兄と自分の精神衛生上、自分の身体には行き過ぎるほど気をつけてはいるのだが。

――今回は、ちょぉっと頑張りすぎたかも。

大体の「力仕事」を終えると、もう兄の出張期間は半分終わっていた。さて、これからが自分のお楽しみの時間だ、と思ったのだが。眩暈。

普段はなんだかんだ言って、家事をしたり、兄さんと話し込んだりしていると、自分の時間などとれなくなってしまう。けれども本当は、もっともっと錬金術の本を読みたかった。

兄さんの手足はまだ、機械鎧のままだった。ようやく賢者の石はボクの身体を取り戻す対価にしかならなかったのだ。それがどうしようもなく悔しかった。兄さんは、「もうこのままでいい」と言うのだけれど、そんなのは、嫌だ。
自分のために失った右手。二人で冒した禁忌で失った左足。
決して納得など出来ない。

――兄さんが諦めても、ボクは。

そう、いつだって思っている。
だから、こそこそと図書館から本を取り寄せたり、文献を読みあさったりしていた。
けれどもそれも、なかなか進まなくて。
夜更かししようにも、心配性の兄が口うるさく言うものだから、それもかなわない。
一度兄さんが寝た後に起きて読んでいたのだが、見つかってえらく怒られた。
泣きそうな顔でもうすんな、と言われてしまえば、ボクはは弱い。
だから、兄さんがいないときにやるに限るのだ。

けれど、さすがに数日間で力仕事をやったら疲れた。
夜は夜で、兄さんの部屋にある錬金術書を読み返していたから、あまり寝ていない。
そろそろ寝なければ、身体が持たなくなるかもとは思っていた。
後遺症と思っている症状の中に、実はもう一つ、困ったことがあった。欠陥というほどのことではないのだけれど、何故か自分の身体のことに関しては鈍い。
怪我をしても言われるまで気づかなかったりするし、(痛いな、とは思うのだが、どの位ひどい怪我か、までは思い至らないのだ)熱が出ていてもすこし身体が重いな、と思う位なのだ。
だから兄さんが必要以上に心配症になるのかもしれないけれど。

ボクは、本当はそんな身体で良かった、と思っているんだけど。
少しの怪我で痛くて起きあがれなくなってしまうのよりは全然いい。
まぁ、困ることといえば無理をして身体をこわすと兄さんが不安定になってしまうこと位なのだから。

――まぁ、だけど・・・。
今回はホントに少しやりすぎたかもしれない。
身体が重くて、ソファに身体を横たえると、立ち上がれなくなってしまった。
平衡感覚が少しおかしい。

でも、まだ兄さんが帰ってくるまでには間があるから。
いっか。と思った。それまでに元気になればいいのだから。
そう思うと、ふっと意識が遠のいた。眠りにすいこまれていく感覚。


次に目を開けたとき、見慣れない白い天井が見えた。

・・・・・・あれ?

横を向くと、兄さんの編まれた金髪がベッドの上に流れている。
窓から月明かりが見えて、今が夜だとわかった。
身体をおこそうとするのに、思うように動かなかった。身体がひどく重く、よく見ると左腕に点滴をされているのが見えた。

・・・・・・ってことは、ここは病院?ボク、またやっちゃったのかな?

ため息をつく。
意識があった時は兄が帰るまでにまだ数日あったはずだ。ということは、兄さんは早く帰ってきて自分が寝込んでいるのをみて慌てて病院に運んだのか。よくわからないけれども、死ぬほど心配させてしまったことは想像に難くない。

別に、病院まで連れてきてくれなくても良かったのに・・・・・・。

一日くらい眠っていれば多分良くなっただろうと思う。
けれども点滴を打たれている、ということは、自分で思っていたよりもひどかったか。

また、心配させてしまった。

――ごめんね。

そう呟いて、重い手を持ち上げ、横に突っ伏したままの頭にそっと触れる。
とたんに、その金髪が撥ねるように起きあがって、驚いた。

「アルっ!!?」
「うわっ。。びっくりした・・・な。もう。えと・・・お・・・おかえり?」

困ったように笑って言うと、兄さんはがばっととびついてきた。

「心配したんだぞ。視察おわって帰ってみれば、家の中しんとしてるし。ソファの中でおまえ、ぐったりしてるし。一体いつから倒れてたんだ、と思うともう、いてもたってもいられなくなって。一人にするんじゃなかった・・・っっ」
「兄さん・・・・・・・。」

そっと、兄の頭を撫でた。ため息をつく。

「ごめん。でも、そんなたいしたことじゃないんだよ。いつもよりちょっとばかし働きすぎたかな、と思ったんだけどさ。兄さんが帰ってくるまでには回復できると思ったし。疲れただけだったし。心配させるつもりはこれっぽっちも・・・・・・」
「それが心配なんだってんだろ!」

兄さんが怒鳴ったので、ボクはその剣幕に驚いた。思わず首を縮める。

「~~しーっ!今夜なんだから・・・・・・。それにしても、兄さん随分早かったんだね?」

そう言うと、また溜息。

「あのな・・・・・・。オレはきちんと一週間視察に行ったの。つまり、おまえは記憶のない間ずっと倒れてたってこと。あのな、おまえが自分で疲れた、とかしんどい、と思ったときはもう限界超えてんだよ。頼むから、もっと自分を大切にしてくれよ・・・・・・」

最後は泣きそうな声になっていた。

「あ・・・・・・ごめん・・・・・・」

しゅんとしてしまう。
いつでも、自分は兄を心配させてしまう。負担になってしまうのだ。それだけは避けようと思っているのに。
うつむくと今度は優しく抱きしめられる。

「頼むから。オレが帰ってくるまでに回復すればいい、とかそんな風に考えんな。いつもどおり、普通に生活していてくれよ。寿命が縮む。」
「――うん。」

兄さんの顔が、自分の目の前に来る。額に額をこつん、と当てられた。

「まだ、熱けっこうあんな。もう寝ろ。」
「――うん。」

何故か不意にその優しさに泣きたくなって、離れていく兄さんの身体を抱きしめた。

「アル??」

どうした、と言外に尋ねるその声も、優しい。

いつもはボクの方が頼りない兄の世話をして、甘えさせているのに、そう思っているのに、本当は逆なのかも知れない、と思う。
こういう、優しい大きな手が、凄く好きだ。優しくて、強くて、そして弱いひと。
力になりたい。傍に立って背中を押してあげたいのに。それなのにボクは、こんな。

「――ごめん。ほんと、ごめん。」

謝ってみると不覚にも泣きそうな声になって、自分でも驚く。
兄さんも驚いたらしく、少し身体を引き離して、ボクの顔をのぞきこんだ。
困ったように眉が寄せられる。

「もう、いいから。」
「うん。」
「これから、気をつけろよ。」
「うん。」
「怒ってる訳じゃないから。」
「――うん。」

もう一度、そっと抱きしめられる。
額に、そっと、キスされた。

「もう寝ろ。明日、帰るぞ。」

ぷいっと反らされた顔は見えないけれど、耳が真っ赤で。
ボクは思わず微笑んだ。

「うんっ。」

しんどさは、少しマシになった気がする。
帰って元気になったら、兄さんを思う存分甘やかしてやろうと思った。






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