すいみんせいかつ


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tenderness


「アル。」

のっそりと起きてきたエドワードさんは戸口に立ったまま僕の名前を呼んだ。
いつもは呼ばない愛称で。
その一言で、僕は黙り込む。
窓から差し込む光は、僕の背中に当たっている。
エドワードさんは俯いたまま、ドアに凭れている。
長い前髪が顔にかかって、表情は見えない。でも、わかっている。今のエドワードさんが、どんな表情をしているかってことぐらい。
きっとあなたはまた、泣きそうな顔をしているんだ。
いつだってぎりぎりのあなたは酷く脆い。
遠くない未来に死を迎える僕よりも。
泣きそうなのに、決して泣かないのは、強さなんかじゃない。
認められない弱さなんだって僕は知っている、誰よりもよく。

俯いたままのエドワードさんはゆらりと覚束ない足取りでこちらへ歩いてくる。
僕の方を見もせずに。

「どうしたの、"兄さん"。」

だから僕は呼ぶ。あなたの弟になりすまして。
あなたはまだ、夢の中にいるんだ。
息すら出来ないような水の中、
溺れるように夢を見て、目覚める時のあなたはいつも辛そうな顔をする。

寄りかかるように抱きつかれた身体が痛い。
きつくきつく頭を押しつけられて、僕は溜息をついてあなたの髪を撫でる。

「お前が・・・いなくなる夢を見て。」
「うん。」
「オレの目の前から消えて。」
「うん。」
「何処にもいなくて。」
「うん。」
「どうしようかと・・・オレは、そんな結末を望んじゃいなくて・・・。」

低い声。
胸が詰まるほど苦しそうに話すのに、あなたはけっして泣かない。
僕はだから、うまく目を覚ますことが出来なかったあなたに、もう一度提案をする。

「あのね。」
「・・・何だ。」
「僕はここにいるから。」
「・・・。」
「全部夢なんだよ。」
「・・・。」
「だから、もう一度寝たら?ね、"兄さん"。」

こくりと頷くエドワードさんは気味が悪いほど素直だ。
弟の言うことなら、こんなにも大人しく従うのか。
僕の言うことはちっともきかないくせに。

ゆっくりと僕を放すエドワードさんはやはり俯いたままで、その顔は見えない。
来たときと同じように覚束ない足取りで寝室へと戻る。傾いた身体は義足のせいだ。
その姿を、ふと、幽霊のようだと思った。
念を残して、天国へと還ることの出来ない幽霊。


僕の方がずっと死に近いところにいるのに。
そう思うと、とても不思議な気がした。



――ここに生きているのに、
まるで生きていないあなたをこころから哀れんでいる。

いつか、あなたに、本当の生を。






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