すいみんせいかつ


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つめたい指先5


頭が痛くて目を開けると、真っ先に飛び込んできたのは兄さんの怒った様な顔で、思わず苦笑した。
ぼおっとしたままの頭で記憶をゆっくり辿って、自分の失態に頭を抱えたくなる。

「目、覚めたのか。」

苦い顔のまま手が額に伸びてきて、その冷たさにびくり、とする。身体が強ばったことを感じたのか、兄さんはすっと手を引いた。

「まだ、熱があるな。」
「・・・そう?」

言ってからいたたまれなくなって、顔を覆った。自分の何もかもが嫌になる。

「アル、」
「ごめんなさい・・・。」

そう言うと、涙が溢れてきた。自分の頑なさと、こうなるとわかっていたのに止められなかったこと。
故意じゃないにしても、兄さんを傷つけてしまったこと。

本当に、どうしてこんなことになってしまったんだろう。

「なぁ。」

目を覆ったままでいると、冷たい指で、兄さんが額にかかった髪を撫でながら、言った。

「オレにも・・・その、壁・・・は解いてくれないのか。」
「・・・・・・。」
「アル・・・?」

冷たい指がすっと離れていって、それを惜しいと思う。でも、まだ顔を合わせられなくて、兄さんの言う意味を考えた。

壁。
言っている意味は、本当は痛いほどよくわかった。でも、知っていると思いたくなくて。ボクは兄さんとこの上なく近くにいると思ってきたんだから。でも、ボクと兄さんは違うもので、それを知られたら兄さんが離れていってしまうんじゃないかと怖くて。・・・怖くて。

不意に、そっと手首を掴まれて、顔を開けられた。冷たい手。抵抗はせずに、でも目は合わせられなくて、横を向く。
親指で流した涙が拭われ、目を瞑った。

「学校、止めろ、もう。そうあいつにも言ってきたから。」

「・・・・・・!?」

あまりにも驚いて、がばりと起きあがると頭がくらりとした。慌てて伸びてきた兄さんの腕をつかみ、見上げる。

「ちょ、それ、どういうこと!?」
「どういうこともないよ。そういうことさ。身体壊してまで学校なんてやらせるか。」
「でもボクは、普通に高校へ行って、出来ればそのまま普通に大学に行って、」
「なんでそんなに学校行きたいんだよ?言ってみろ。」
「それは・・・・・・。」

目が泳ぐ。兄さんみたいに賢くないから、なんて言えない。ぼろぼろとまた壊れた玩具のように涙が溢れてきて、兄さんは困った顔をした。

「・・・泣くなよ・・・。」
「・・・・・・。」

言えなくて、黙って俯くと、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。

「なぁ、アル。オレだけじゃ、不満なのか。」

そっと見上げると、溶けそうに濃い金の瞳。

「オレが、お前の知りたいこと全部教えてやる。なんでも。オレも知らないことなら二人で勉強すればいい。それじゃ、駄目なのか。」

「・・・兄さん・・・?」

おずおずと切り出された珍しく控えめな声に首を傾げると、ぎゅっと思い切り抱きしめられた。

「学校なんて、どうでもいい。お前が身体壊していくのを見るのはもう勘弁なんだよ!!今日だってオレが行かなかったらお前、死ぬとこだったんだぞ!!今までは、学校が好きみたいだったから許していたけどな、こんなに無茶するならもう許さねぇ。大学だってやらねぇ。家からなんて出してやらない。オレがお前に何でも教えてやるから。だから。」

熱を持った身体に、きつく、指が食い込む。

「ずっとオレの傍にいろ。」

兄さんの必至な様子に、驚いた。
何か、胸の中でつかえていたものがすとん、と落ちた気がする。
兄さんとの隔たりを感じて怖がっていたのはいつもボクの方で。本当は、ボクが怖がっていたものなんて、兄さんにとってはどうでもいいことだったんだ。
心底ホッとして、自分より一回り大きな背中に手を回した。さらりと手触りのいい髪を弄ぶと、少しだけ兄さんの腕が緩んだ。

「ボクはずっと傍にいるよ。兄さんが望む限り。」

耳元でそっと呟くと、身体が離された。少し驚いたような目。

「それに発作なんかでは死なないよ?大袈裟だなぁ。ボクはそんな柔じゃないし、」
「いいのか?」
「いいのか、って、学校のこと?自分で勝手に止めてきたくせに。」

呆れて言うと、兄さんは脱力したようにベッドに伏せた。

「良かった・・・怒って家出て行かれたらどうしようかと思った。」
「そんなことするわけないじゃない。ボクの優先順位はいつだって兄さんだよ。」
「・・・・・・っ!お前な・・・・・・。頼むからそういうこと素で言わないでくれ・・・。」
「・・・え?」

伏せたままの兄さんの首筋が赤くなっていて、思わず笑う。

「ホントだよ?ホントに大好きなんだか・・・。」
・・・・・・コホン。

「アル!」

がばり、と起きあがる兄の、真剣な目。この猫のように鋭くも、柔らかくも伸び縮みする目が、堪らなく好きなんだな、と思う。

「お前、まだ熱あるんだから寝てろ、後でなんか食べやすいもの持ってきてやるから。」
「・・・うん。」
「ずっと傍についていてやるから。」
「傍にいたら作れないんじゃない?」

笑って言うと、怒ったように眉が顰められ、啄むように唇にキスされた。

「・・・・・・!」
「苦しくなったらすぐ呼べよ。薬、足しといたけど発作じゃなくてもすぐ呼べ。」

くるりと背を向けて、部屋を出て行く。でもその耳は真っ赤で。
急にこっちまで恥ずかしくなって、顔が熱くなった。唇にそっと触れる。

目を閉じると思い出すのは、涙を拭った兄さんの、冷たい指先。

・・・良かった。

あの指を、失わずにすんで。本当は学校なんてどうでもよくて、本当に大切だったのは兄さんの傍にいられること。それが叶ったのだから。
重かった荷を解いて、ようやく眠れる。
いつだって、兄さんがボクの手を欲する時には、差し出せるように。支えられるように。健やかにあろう、と思った。







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