すいみんせいかつ


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続・つめたい指先1(死にねた)


アルがベッドの上から動けなくなったのは、秋口のことだった。
微熱が続き、無理に動くとすぐに発作がおきる。呼吸が止まってしまう程の発作は少なくても、息苦しい程度の小さな発作は絶え間なく続き、もともと頑丈でないアルの体力を奪っていた。
眠っていても、浅い呼吸。
血の気のない顔は透き通りそうなほど白い。輪郭は以前より鋭くなり、唇は乾いて荒れていた。
夢を見ているのか、時々瞼が動く。その度に、金色の睫が揺れた。
締め切っていたカーテンを開けると、夕方の赤い光が飛び込んでくる。その光に目を覚まし、うっすらと開かれる瞳。
「兄さん・・・?」
囁くように出された声は掠れている。
オレは黙って傍へ行き、そっと手をアルの額に下ろした。いつも通り、じんわりと熱い。とろん、とまだ覚醒しきっていない目は潤んでいた。
「どっか、苦しいとこないか。」
低く、静かな声で聞けばうっすらと微笑まれる。だいじょうぶ、と呟きかけて、アルは咳き込んだ。苦しそうに、庇うように丸まる身体、何も出来ないまま、そっと背中に触れる。くっきりと骨の形。肉の落ちた背中に悲しくなる。
「・・・アル、食事の時間。昼食べてねぇだろ。」
「・・・うん。」
アルは横を向いたまま、じっと動かない。身体を起こすのも疲れるのだろう、一日中眠り続けても、こんなに浅い眠りでは休まることもない。
「・・・食欲ない、か?でも、薬入れないと、」
「・・・うん、わかってるよ。」
ゆっくりと起きあがろうとする身体を支える。後ろから抱きかかえるようにして全体重を引き受けてやると、アルは安心したように力を抜いた。身長はほとんど変わらないのに、ひどく軽い。肩の上にもたせかけてきた頭だけがずしりと重くて、ここにアルがいるのだと強く感じられた。
動いたことで、再び乱れる息。それが整うまでじっと待つ。苦しいのか、身体を支えている手に、熱を持った手が重ねられる。
「大丈夫か。」
「うん。・・・・・・ねえ、」
「何だ?」
「もう少し、こうしていて。」
「・・・ああ。」
日の光が、少しずつ影を帯びてくる。金色から、茜へ、そして、青みがかった紫へ。
ベッドの上に作られた光の帯は徐々にその強さを弱めた。薄くて熱い背中、ごりごりとした肩胛骨の感触。
ふ、っと抱えた腕に添えられていた手から力が抜けたので、驚いてのぞき込んだ。熱っぽい目は半分閉じられかけようとしていて、覚束ない視線でこちらを見る。
「アル、」
「・・・うん。」
「寝るなよ。」
「・・・う・・・ん。」
とろり、と溶けそうに金色の瞳。オレのものより幾分柔らかい光を放つ。それはオレたちの性格を表しているようでもあり、ひどく愛しい。
「・・・寝るなってば。一番太い注射入れるぞ。」
「え、それは嫌だ、」
ぱちり、と目を見開いて、子供みたいなことをアルは言った。身体をねじって、こちらを向く。それを手伝ってやり、そのままじっと顔を眺めていると、アルはふっと表情を和らげた。
「どうした、」
思わず聞くと、アルは黙ったまま手を伸ばしてくる。その指が、オレの唇をなぞった。そっと、少しだけ口の中に進入してくるアルの細い指。
「・・・おい、あんま煽んな。」
困って言うと、アルはまた笑った。
「やってもいいよ。身体熱いからきっと気持ちいい。」
「アルっ!!」
露骨な言葉にらしくない、と驚けばさらに口腔に進入してくる指。
目の前の弟は少しだけ眉を寄せた。
「キスして。」
甘い声じゃない、苦しそうな声でもない。ただ淡々と乾いた口調。
それでも望み通り口づけた。アルは深いキスが好きではないので、軽いバードキス。けれどもやめようとしたところで、アルの舌はオレの方へと進入してきた、きつく吸われる。体温と同じく、熱い。
長く口づけていると、背中に回っていたアルの手が、ぎゅ、ときつく食い込んだ。苦しそうな様子に思わずキスを終わりにすると、案の定上がっているアルの呼吸。
「・・・大丈夫か、」
頬に手を寄せて聞くと、アルは再び抱きついてきた。耳朶を甘噛みされる。
「・・・・・・・っ!!、おい、」
引き離すと金の瞳はさっきより潤んでいて思わず見入ってしまう。
「アル??」
どうしたんだ、今日は、と促すとアルは少しの間だけ目を伏せた。
「なんでもない・・・。たまには、こういう日があっても。」
「それにしても変だ。お前らしくない。全然。」
「こんなボクは嫌い?」
首を傾げる様子は、とても幼く見えた。何故か儚くて、回した手に力が入る。
「まさか。嫌いなわけないだろ。」
「あのね・・・・・・。」
こつん、と胸に額をあてられて、顔は伏せられる。アルの熱い身体がまた、こちらに倒れてくる。
それは気持ちがよくて愛しくて、けれど同時にとても不安で、心配で。
深く抱き込んでやるとぽつり、と呟かれた。

「今日のキス、忘れないでね。」

その声はか細かったのに、何故かずしりと胸に響く。
きつく食い込んだアルの指が、痛いほど熱かった。

・・・忘れるわけが、ない。
こんなに不安な気持ちを、そして痛みを、熱さを。

離してなんかやるもんか、と思うのに、いつこぼれ落ちていくかわからない。
――どこへもいくな、と声にならない声で呟いて、ひどく泣きたくなった。






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