すいみんせいかつ


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寒くて震える (1)


 それはなんの変哲も無いいつもの朝で、ちょうどギルベルトが最後のパンの一切れにバターを塗り終えたときのことだった。
 「……ふへ?」
 聞こえた言葉が信じられず、ギルベルトはまじめな顔をした弟の顔を見返した。
 「聞こえなかったのか。俺は、兄さんが好きだ。兄弟としての思慕ではない。恋慕している、と言っている。」
 弟の顔はあくまでもまじめだった。からかっている様子はない。
 ギルベルトはとりあえず、口の中に入ったものをゆっくりと噛み砕き、傍らのコーヒーで飲み干した。
 「……そうか。」
 それ以上の言葉が返せなかった。はっきり言って、何を言われたのかまだよく理解できていなかったし、それがその、そういう意味であったとしても、もしかしたら間違いかもしれない——たとえば、なにやら真反対のことを言ってしまう薬(某国がよくやらかす不始末のたぐい)を飲まされたかもしれないし、弟の親友であるところのイタリアや日本から何かよくわからない行事を吹き込まれたのかもしれない——と思った。
 しかしたとえそれが本当だったとして、ギルベルトはなんと返答してよいかわからなかった。
 弟は好きだ、何にも増して。自分の命に代えてもいいぐらいだ、もちろん。
 しかし、それとこれとは別の話だった。
 愛する弟は、そんなギルベルトを少しだけ眉をひそめて見てから、では行ってくる、と言って、いつものようにギルベルトに挨拶のキスをした。
 「今日は遅くなる、夕飯はいらない。」
 「おう、わかった。無理しすぎんなよ。」
 「鍵は閉めておいてくれ。」
 「わかった。」
 同じく挨拶のキスを頬に返し、ほんの少し弟の眉間の皺が緩むのを確認する。
 弟の耳は少しだけ赤く染まっていた。
 しかし、いつもと違うことといえばそれだけだった。
 ほどなくして、ドアが閉まる音がする。
 しん、と家の中が静まり返ったのを確認し——それからようやく、ギルベルトは放棄していた思考をたぐり寄せた。
 えーと。なんだっけ?
 ——ヴェストが?俺を?れんあいとして、好き?だって?
 ギルベルトは頭を振った。やはり、よく意味がわからなかった。
 男同士、というところは100歩譲っていいとして(本当はよくない、というか勿体ない、あんなにいい男だってのに好きになる対象が女じゃなかったなんて)、相手が自分、というところがわからない。兄弟、とは言っているが、その実親子と言っていいほどのつきあいだ。国は人と違ってそのように生まれるものではないから、血のつながりというのは違う気がするが、それにしてもおかしいだろう。ましてこんな、出来損ないの兄だ。亡国だ、国ですらない。
 ——とりあえず、様子を見てからにしよう。
 答えを求められているのだろうか、とぼんやりと思ったものの、その考えをギルベルトは頭の片隅へ追いやった。
 一時の気の迷いかもしれないし、夢見が悪かったのかもしれない。考えない事にしよう。返事を求められたわけではないのだ。
 コーヒーを飲もうとして、カップが空だったことに気付く。
 理由はわからないが、手が震えていた。
 もうすぐ夏が終わる。
 秋が近づいたせいかもしれなかった。






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